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幽門の鐘~黄昏番傘奇譚 [読書]

 珍しく甘いお菓子など買って帰った。
ついでに白砂糖を袋から小さなタッパーに小分けする作業を行う。
取りこぼせばたちまち微細な黒い甲虫群体に発見される事となり、後々面倒な事になるのでこの作業は劇物並に慎重を喫しなければならない。
さっそく紅茶を淹れて控えめに白砂糖を使う。
茶菓子の袋を開けて数個だけ外に出す。
   ぼぉおおぉぉぉん
6時になると近所の寺の鐘が鳴るのである。
銅鑼のごとき残響を辺りにふりまきながら。
昼と夜は神秘の音波で切り分けられ、周囲は唐突に異界と化す。
 嗚呼、まただ
また間に合わない。
絨毯にドス黒い染みが広がり、壁紙がドロドロと溶け出し、腐った鉄骨が軋みを上げて血のような錆が泡立って膨らんでいく。 空気は至極重く、鉛のように濁った光だけが鈍く反射して室内を狂気然と照らす。  何者の仕業か、極彩色の奇妙な図形が無作為に貼られた空間におののきながら出口を目指す。愛用の邪の者避けの番傘を引っ掴み、幾度も転びそうになりながらもドアに辿り付いて開ければ、吐き気を催すような庭園があぎとを開いて待っていた。ヘドロと見紛う粘液質の表土の下で血管がのたくるように線虫が躍る。少しでも踏み出せば足首に取り憑いて体躯を駆け上り、たちまち全身を蝕むであろう。  悪意に満ちた陥穽に嵌るまいと金切り声を出して飛び退くも、浅はかな抵抗は汚濁に塗れた邪業どもの嘲笑と歓喜を呼ぶだけなのだ。 硫黄を焦がす猛烈な臭気と不快な裂音が襲いかかり、いつものように四肢を砕かれ、容赦なくうち捨てられた。 障気を噴き出す穢れた沼で闇雲に手足を求めて蠢き、啜り泣く汚物となった私は涙を垂れ流して絶叫する。
「わかった! 残りはあげよう。この甘党さん★」
   ぼぉおおぉぉぉん
 最後の鐘が鳴った。
黄昏の朧な光は物の輪郭を曖昧にする。
黄色のような渋茶色のような同一系色の世界で我に返った。
お菓子の袋は空だった。
まあ、ダイエットだと思って我慢するか。
そして今日も私はパソコンに向かうのだった。
あっと、指が1つ足りない。どこだ。


 このような奇怪な暗黒文章を好んで書く私ですが、精神に異常をきたして居るわけではありません。ご安心ください。
前々から更新が少ないとプロバイダさんから再三注意されているので、なんとか更新頻度を上げる工夫を考えています。
……ツイッターのつぶやきまとめとかでも許されるのだろうか。


 以下を読了。

●『アレクシア女史、倫敦で吸血鬼と戦う』ゲイル・キャリガー〔ハヤカワ文庫FT〕
●『人造救世主 ギニーピッグス』小林泰三〔角川ホラー文庫〕

暗黒アホ文章を飛ばして続きの書評2つを読む


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【書評】『時の娘』 [読書]

『時の娘』
ジャック・フィニィ ロバート・F・ヤング他
[創元SF文庫]

 時間という、越えることのできない絶対的な壁。これに挑むことを夢見てタイム・トラヴェルというアイデアが生まれて一世紀以上が過ぎた。この時間SFというジャンルは、ことのほかロマンスと相性がよく、傑作秀作が数多く生みだされている。本集には、このジャンルの定番作家ともいえるフィニィ、ヤングの心温まる恋の物語から、作品の仕掛け自体に技巧を凝らしたナイト、グリーン・ジュニアの傑作まで、名手たちによる9編を厳選し収録した。本邦初訳3編を含む。
――――――――――――文庫巻頭より、引用。


▼東京創元社のグッジョブ!なロマンティック時間SF海外作品アンソロジー『時の娘』読了。
 2009年刊の文庫で、ちょびちょび読み進めてはいたのだが間が空いてしまって積読。
だいぶ乗り遅れ感はあるが、また最初から通読したので書評を書くよ。
どの作品も実に濃密でありユニークであり「読書」を愉しめた。
収録順に簡単な感想です。

●「チャリティからのメッセージ
作:ウィリアム・M・リー
 謎の発熱病から、1965年の少年と1700年の少女の意識と一部の感覚が混じり合ってしまい、265年の時を越えて交流を図る物語。
それぞれの時代の違いに戸惑う2人も面白いが、後半の法廷闘争に移るストーリーは少女の身がピンチ!な演出もあってわくわくさせるものがある。決して会うことの叶わぬ2人の心の触れ合いが美しい。

●「むかしをいまに
作:デーモン・ナイト
 最初の2ページを読んでもどういう状況なのかさっぱり理解不能な導入部分。明らかに文法もおかしい。どういうことよ?!と読み返してやっと気付く。
この物語はタイトルの通り主人公が死亡した瞬間から始まり少年時代まで遡る、時間の逆転した世界の物語。つまり、死亡=生誕ということになる。これを理解できると奇妙な文章の内容を解釈しながら何が起こっているのかを次々と把握できるようになる構成だった。なんという前衛小説!
 一人の男性の半生を追い、なんとも不思議な追体験をさせてくれる傑作。

●「台詞指導
作:ジャック・フィニィ
 映画撮影用に調達した19世紀のクラシックなバス。一部のスタッフと俳優がちょっとしたイタズラ心で深夜に19世紀の衣装を身にまとって市街にバスを走らせる。するとどうやら本当にその時代に入り込んで……。
 ネタは小振りなんだけど、登場人物の心理の動きを読者に予想させつつコロンと裏切るテクニックが憎い(笑)
古典的ながら非常に秀逸な構成力に脱帽です。

●「かえりみれば
作:ウィルマー・H・シラス
 日本でも特撮映画になった「アトムの子ら」の原作者の短編。
ミセス・トッキンというおば様の奇妙な冒険を描いたシリーズらしい。
このお話ではトッキンさんが知り合いの怪しい教授(笑)のお薬を飲んでピチピチの16歳だった青春時代に舞い戻った体験を茶飲み友達に語るという構成。
 誰しも記憶を保持したままもう一度青春時代から人生をやり直したいという欲望は持っているものですが、トッキンさんがそんな戯れ言をポロリと言ったら教授が「なんとかできるかも知れません」とか言って用意してくれたお薬を飲んだからさあたいへん。目が覚めるとハイスクール時代の自分に若返っている! 死んだはずのおじいちゃんおばあちゃんとの再会を経て、浮かれつつ戸惑いまくるトッキンさんには学校地獄が待っていた。物理や語学の勉強をまたやり直す苦痛を味わったり初恋の大学生に頬を染めたり、なかなかのエンターテインメントっぷり。個人的に、アメリカの学生の授業や日常生活が垣間見られる描写がたいへん興味深い。
このシリーズ、是非ほかを読んでみたいものです。良作。

●「時のいたみ
作:バート・K・ファイラー
 この作品も前衛的で前半はなかなか状況を理解できなかったが、読み進めるうちにタイムトラヴェルを実行した主人公の想いやその結末に納得できる。
短めな話で内容に踏み込むと即ネタバレなので書かないが、ロマンティックながらハードな現実を登場人物に背負わせるストーリーの硬質さに惚れる。

●「時が新しかったころ
作:ロバート・F・ヤング
 これぞペーパーバック娯楽小説の極み!という傑作ですね。
舞台は恐竜の闊歩する太古の地球。調査のために恐竜型調査ロボットに乗り込む主人公の前に幼く可愛らしい人間の姉弟が! 2人を狙う謎の武力組織が執拗に迫る! 奴らの正体とその企みとは。果たして!……という、お約束の冒険活劇。
すごいわ、ロバート・F・ヤング。間違いなく、読んで幸せな気分に浸れる。
読者の求めるモノをわかってやがるぜ!

●「時の娘
作:チャールズ・L・ハーネス
 かなりコアでハードなタイムパラドックスをネタにした逸品。
愛情を感じられない母親に育てられる少女は定められたかのように男に恋をし、時空を越える事になる。過去と未来が交錯してもう読み終わっても何がどうなっているのかちゃんと理解できない異様さを体験できます。いや、ほんと、どうなってんだ。アレとアレが本人で娘はいったい誰になるの? ん? え? いや、わかったようでわかってない。モヤモヤするけど、なんだか凄い作品です。

●「出会いのとき巡りきて
作:C・L・ムーア
 キター!
伝説の美少女(という事になっている)女流SF作家キャサリン・ルシール・ムーアの作品。
気になってはいたんだけど、C・L・ムーア作品が書かれた年代が古すぎて手を出さずにいたんだけど、その不明を恥じます。好みです。大好きです。
ぬおおおお、70年以上も昔にこういった作品が書かれるアメリカという土壌! すげえ!
 話の筋は単純で、世界各地の修羅場をくぐり抜けた屈強の若者が時間旅行装置を発明した学者の実験台に名乗り出て、様々な時空をさまよい、行く先々に現れる共通の雰囲気を持つ謎の美女との符号に苦悩し、時に美女を救うために戦う遠大な時間の旅路。
 太古の世界の雰囲気いいね。
ロバート・E・ハワードの「コナン」のヒューペルボリア(ハイパーボリア)とかにも合致する、当時のトレンドの世界観があったのかも知れないけど、クトゥルー神話小説にも通じるそこはかとない宇宙的スケールの正体のわからない存在との「異質の愛」みたいな、なんかそういうの。憧れるわー。こういうの書いてみたいわー。

●「インキーに詫びる
作:R・M・グリーン・ジュニア
 前半の描写がひどく前衛的で、統合失調症の男の一人語りかよ!というツッコミを入れたいほど難解な文章が続くのだが、それらはすべて後半への伏線であり、黙って読み進めると、ぶちまけたジグソーパズルが噛み合っていくような快感を後半は得る事になる。
精神世界と物理世界の時間軸がいつしか複雑に混じり合い、初老の男性の幼少期のトラウマが並列したエピソードとして流れ、同時に別時代の男性がそれを傍観して時に干渉する。
 これは癒しの物語ですね。
贖罪と誤解を解くための時空を越えた旅。
時間を一本の直線ではなく、曲がりくねって時に混じり合うものと捉えた時に、この作品の本質を理解できます。
読了後、ほんわかした気分になれること請け合い。
 作者は覆面作家だという。
うーむ、いったい誰なんだ。気になるっ。
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ブルースカイ・アーカイブ [読書]

 封印していた無線LAN接続機器のアップルAirMacExtremeを稼働。
多少問題はあったものの、ちゃんと動き出した。
で、愛用のiPod touchが無線でデータをやりとりできるようになったので、さっそく無料アプリや低額アプリを投入。
その中に『青空文庫』のアプリが無料であった。

 青空文庫とは、版権の切れた名作小説をダウンロードできるもので、10年くらい前からお世話になっている。
生テキストにして先代マッキントッシュの中にかなりの数がある。
 今回、最新機器であるアイポッドタッチに名作小説を入れるわけだが、サイトには作品がいっぱいありすぎてどれをダウンロードするか目移りしてしまうので、ここは私らしく 夢 野 久 作 の作品をダウンロードしました。『少女地獄』と『ドグラマグラ』です。

 『少女地獄』……タイトルは強烈だが、そんなエログロ小説というわけではなくて、まっとうなシナリオのサイコサスペンス。
姫草ユリ子という希代の嘘つき娘にまつわるお話です。
昭和初期の空気を感じてグイグイと引き込まれる筆致が見事である。
 『ドグラマグラ』は大学生時代に読んだんだけど、後半をだいぶ忘れてしまった感じがしたので、こいつで再読してみるのも乙なものかもしれないと思って入れてみた。
後悔はしていない。


 本屋をフラフラする。
たまには国内作家の若手っぽいのでも……と思って、森見登美彦「四畳半神話大系」(角川文庫)を買ってみた。
さっきアニメ化第1話やってたね。
文章は最初の辺りを読んだ限りではけっこう好みです。
短編集も買ってみようかな。


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【個人的メモ】ここ最近買った書籍 [読書]

■新刊■

雑誌●『月刊アフタヌーン』2010年2月号 /講談社


雑誌●『KORG DS-10+ 音作りパーフェクトガイド』
大人の科学マガジン /学研


雑誌●『スモールエス(SS)』2010.Vol.20 3月号 /飛鳥新社


小説●『天涯の砦』
小川一水 /早川文庫JA


小説●『第六大陸』1・2
小川一水 /早川文庫JA


小説●〈海軍士官クリス・ロングナイフ〉『新任少尉、出撃!』
マイク・シェパード 中村尚哉・訳/早川文庫SF


小説●『ヘリックスの孤児』
ダン・シモンズ 訳=酒井昭伸・島田洋一/早川文庫SF


単行本●『日本トンデモ人物伝』
と学会・原田実 /文芸社


単行本●『トンデモ フリーメイソンの真相』
皆神龍太郎+有澤玲 /楽工社


漫画●『ヨルムンガンド』7巻
高橋慶太郎 /小学館


漫画●『ブラム学園-アンドソーオン-』
弐瓶勉 /講談社


漫画●『ぢごぷり』1巻
木尾士目 /講談社


漫画●『バクマン。』6巻
作=大場つぐみ 画=小畑健 /集英社


■中古■


漫画●『シグルイ』1~13巻
原作=南條範夫 画=山口貴由 /秋田書店


漫画●『げんしけん』1~9巻
木尾士目  /講談社
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『時砂の王』 [読書]

『時砂の王』ハヤカワ文庫JA
著者:小川一水

 西暦248年、不気味な物の怪に襲われた耶馬台国の女王・卑弥呼を救った“使いの王”は、彼女の想像を絶する物語を語る。2300年後の未来において、謎の増殖型戦闘機械群により地球は壊滅、さらに人類の完全殲滅を狙う機械群を追って彼ら人型人工知性体たちは絶望的な時間遡行戦を開始した。  そして3世紀の耶馬台国こそが、全人類の存亡を懸けた最終防衛線であると——。  期待の作家が満を持して挑む、初の時間SF長編。

(文庫裏表紙のあらすじより引用)



▼小川一水『時砂の王』読了。
 短編集『フリーランチの時代』の最後に収録された書き下ろし作品「アルワラの潮の音」が『時砂の王』のスピンオフ(派生ストーリー)ということで、買うつもりはなかったけど、興味が涌いたので買って読んでみた。
結論からいいますと、買って良かったです。
おもしろい!
OVAでも見てるかのようなノリでサクサク読めました。

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『フリーランチの時代』 [読書]

『フリーランチの時代』ハヤカワ文庫JA
著者:小川一水

「私は人類をたいらげたい」—— 火星やまと基地の隊員4名が体験した、あまりにもあっけないファーストコンタクトを描く表題作、太陽系開拓時代に孤独な宇宙船を駆るニートの日常「Slowlife in Starship」、いつのまにか不老不死を獲得してしまった人類の戸惑い「千歳の坂も」、そして傑作長編『時砂の王』に秘められた熾烈な戦いを描くスピンオフまで、心優しき人間たちのさまざまな“幼年期の終わり”を描く全5篇収録。

(文庫裏表紙のあらすじより引用)



▼小川一水『フリーランチの時代』読了。
 同作者の前の短編集『老ヴォールの惑星』が気に入ったので、次に出る短編集も期待していました。
ちょっと初々しい感じの作品が多かった『老ヴォールの惑星』と比べると、『フリーランチの時代』は熟成された作家性の高い作品集という印象ですね。どの作品も、見事にSFしていてよかったです。
傾向としてはグレッグ・イーガン的な、自己同一性をテーマに含んだ作品が目立ったような。
 では、順に感想を書いていきます。
あんまり内容に踏み込むとたちまちネタバレしてしまうのがツライところです。
なるべくネタバレしないように書きますが、興味ある人は買って読んでから以下をご覧下さい。


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